江戸時代中期、京都の錦市場にある青物問屋「桝源」に、一人の男の子が生まれました。その名は、伊藤若冲（いとう・じゃくちゅう）。後に、日本美術史にその名を刻む奇才の画家です。

幼いころから身の回りの鳥や草花を観察するのが好きだった若冲は、商売のかたわら、絵筆を握っては生き物を描いていました。

けれど40歳を迎えたある日、彼は大きな決断をします。——家業を弟に譲り、絵に生きる道を選んだのです。若冲の描く世界は、どこか現実離れしていながら、驚くほど緻密で生き生きとしています。 羽の一枚、鱗の一片、花びらの縁取り……そのすべてに、「命」そのものを吹き込もうとした情熱が宿っています。

彼は、仏教に深く影響を受けながら、禅僧たちとの交流を通じて精神性を磨き、時には1マスずつ色を塗るという独自の手法で、まるでモザイク画のような花鳥画も生み出しました。

けれど当時の画壇の主流から外れていた若冲は、生前から特別な名声を得ていたわけではありません。「変わり者」や「奇人」と呼ばれたこともあったでしょう。 それでも、彼はただひたすらに、自分の目に映る“命の姿”を描き続けました。


そして今—— 若冲の作品は、時を越えて再び光を放っています。大胆な構図、鮮やかな色彩、そして筆先に宿る静かな熱。 「若冲の見つめた世界」を、ぜひ会場で体感してください。